妊娠中のトラブル
妊娠初期[胞状奇胎]
受精卵が着床すると、胎児へ発生する「胎芽」部分と、胎盤へ発生する「絨毛」とに分かれる状態にまで発生しています。
絨毛というのは細かい毛のような組織で、胎芽部分(=胎児)とは臍帯を通じてつながっており、木の根を伸ばすように子宮内膜内へ伸びていって、母胎側から栄養分や酸素を吸収する働きを持つ組織です。この絨毛細胞が異常に繁殖し、子宮内部がブドウの粒のような奇胎でいっぱいになる病気で、水泡状になった絨毛がブドウの房状に見えるため「ブドウ子」と言われたりします。
医学的には、絨毛性疾患のひとつです。発症頻度は400~500人に1人の確率と言われています。
胞状奇胎は受胎後すぐに現れることが多く、2~4ヶ月頃から症状が現れ、子宮内の奇胎が急速に成長するため、通常の妊娠より早くから子宮(お腹)が柔らかく、大きくなるのが特徴です。この病気ではほとんどの場合、胎児は形成されないか妊娠のごく早期に育たなくなってしまいます。
原因
胞状奇胎が起こる原因は、一つの卵子に二つの精子が侵入することと、受精時に卵由来の核が不活化し、精子由来の核のみが分裂増殖していくことであると考えられています。
症状
主な症状
茶褐色のおりもの
性器出血
重いつわり
妊娠初期からみられるむくみや高血圧などの妊娠中毒症
超音波所見で多数の粒状陰影が認められる
尿検査でのHCG値が異常高値を示す
基礎体温に高温が14(±2)日以上続く場合や、不整の場合
胞状奇胎の症状は、初期症状としては性器出血からはじまり、つわりがひどいのに切迫流産の症状があることが一番多く見受けられます。通常、切迫流産すなわち流産しかかった状態にある場合には、絨毛から分泌されているホルモンが減少している場合が多いため、つわり症状が軽くなるのが普通ですが、これに対し、胞状奇胎では絨毛から分泌されるホルモン=HCG(ヒト絨毛性ゴナトドロピン・胎盤が形成されるとき絨毛組織から分泌されるタンパク系のホルモンのこと)が大量となるため、つわり症状が悪化するという、切迫流産とは相反する症状を起こします。
症状が切迫流産・子宮腟部びらん・子宮頸管ポリープ・機能性出血と類似しているため、症状がみられたら速やかに医師の診断を受ける必要があります。
治療・対処法
胞状奇胎ではなるべく早く子宮の内容物を出すことが必要となるので、子宮内容除去手術(子宮内掻爬)を行います。子宮摘出が必要になることはまれですが、高齢で挙児希望のない方には子宮摘出が適用されることがあります。
子宮内容除去手術は5~7日ほど日にちをあけ、2度にわたって手術を行うのが普通です。これは胞状奇胎では、子宮がかなり軟らかくなっていて掻爬操作によって子宮に穴を開けてしまう可能性があること、および2度の操作を行うことで子宮内容をなるべく完全に除去するようにすることがその理由です。胞状奇胎は、前絨毛がん状態の為、術後も経過観察が必要になります。
退院後は2~4週ごとの通院によりHCG値を管理していきます。HCG値が正常値まで下がれば、2~3ヶ月おきの通院になります。
予防としては、妊娠をしないことが最大の予防となるため、胞状奇胎の摘出後1年間ほど避妊することが勧められます。きちんと通院を続け、医師の管理を受けつつ、「もう妊娠しても大丈夫」という許可が下りれば、次の妊娠にトライしても大丈夫です。
次の妊娠で、胞状奇胎になる確率は一般の全妊娠者と同じです。一度なったからといって、繰り返しおこるわけではありません。HCG値が順調に下がり、基礎体温の二相性化がみられ、医師の許可が出れば次の妊娠は可能です。