いよいよ出産
出産法あれこれ
[帝王切開]
赤ちゃんが子宮口から産道を通って、膣から産まれてくることを「経腟分娩」といいます。それに対して、ママのお腹を切開して赤ちゃんを取り出すのが「帝王切開」と呼ばれている方法です。
母子に何らかの問題があり、経腟分娩が難しいとあらかじめ判断された場合に行うのが「予定帝王切開」。これに対して、お産の途中でトラブルが発生し、赤ちゃんを緊急に取り出す必要が出てきた場合に行うのが「緊急帝王切開」です。あらかじめ帝王切開と決まっている分娩は予定帝王切開、トラブル時に行われるのは緊急帝王切開と覚えておくとよいでしょう。
現在、帝王切開は全妊娠の10%くらいの割合で行われていますが、一度、帝王切開で出産していても、次のお産がまた必ず帝王切開になるとは限りません。帝王切開自体は、何度まで可能というはっきりとしたラインはなく、だいたいが「最大3回まで」と言われています。
帝王切開は古代ローマ帝国の皇帝シーザーの命令で始められたといわれたことから、この名前がついたといわれています。また、帝王切開で産まれた赤ちゃんの方が頭が良いといわれたりしますが、それはウソ。同じく、出産のストレスがないため、我慢ができない子が多いなどといわれていますが、そのようなデータはどこにもありません。
また、わが国ではお産の痛みを経験してこそ、母性が芽生えるといった風潮が昔から根強くありますが、妊娠中にお腹の中で赤ちゃんを大切に育んできたことは、どの分娩方法になったとしても変わりはありません。
帝王切開の手順
帝王切開は、一般的な開腹手術の中でも安全性が高く、ほとんどトラブルは聞かれません。お腹を切るといっても、あまり過剰に心配することはないでしょう。手術時間は30分~1時間程度です。
37週目が過ぎ、赤ちゃんの状態が良ければ、手術のスケジュールが決定されます。緊急帝王切開の場合は、本人、家族の同意を得て、必要な検査をした後、手術に入ります。
切り方には縦切開と横切開の2種類があり、時と場合によって使い分けられますが、病院や医師の方針、帝王切開の原因、麻酔方法や緊急度により決定されます。縦切開は手術中の視野が広いため、執刀医師が手術を行いやすいというメリットがあり、緊急の場合は縦切開で手術が行われますが、切開になった場合に備えて、事前に相談・確認をしておくことが大切です。
帝王切開時の麻酔のほとんどは脊椎麻酔でおこなわれます。また、硬膜外麻酔といって、背中から麻酔薬を入れる細い管を入れて麻酔を行う場合があります。しかし、出血や胎児仮死で超緊急手術になる時や、出血傾向や感染など脊椎麻酔や硬膜外麻酔の禁忌がある時などでは、全身麻酔での帝王切開となることがあります。
縦切開
おへその下から恥骨に向かって縦に切ります。手術時間が短く、確実性も高いため、緊急時に多く用いられます。
横切開
恥骨の上あたりを横一直線に切ります。手術跡が目立ちにくく、痛みも軽い人が多い、というメリットがあります。
手術後について
手術の際の麻酔が切れるのには個人差もありますが、手術が終わってからしばらくは麻酔の効果が残っていますので、下半身の感覚がなく、痛みを感じることがありません。もしも頭痛や吐き気がある場合や、気分が悪い時にはすぐにスタッフに伝えましょう。麻酔が切れると傷の痛みや後陣痛などを感じるようになります。1~2日は食事が取れないため、栄養と水分は点滴でとります。抜糸は約1週間後で、その間に問題がなければ、10日後くらいには退院できるでしょう。
ママにとっては、産後の体の回復が遅れてしまうお産方法ではありますが、赤ちゃんにとっては負担が少なく、安全なお産方法といえます。また、母乳の分泌も普通分娩とかわりません。なお、次の妊娠は、1年くらい後にした方が体に負担がないでしょう。しかし、帝王切開も「手術」には変わりがありませんので、術後合併症として再出血(縫合不全)、感染、血栓症(肺塞栓症)、術後癒着(腸閉塞)、麻酔に伴う合併症などが挙げられます。
手術後の傷は1年程でほとんど目立たなくなります。お腹の中は吸収糸で縫い、皮膚の表面はホッチキスのような金具で止めてテープでカバーします。傷あとは徐々に小さくなり、3ヶ月ほどで赤みもとれて1年程で目立たない状態になります。ただし、ママの体質によってはケロイド状に残ることもあるため、気になる人はお医者さんに相談してください。
また、手術後の傷跡がかゆくなるママもいます。通常は半年もすればかゆみは感じなくなるはずですが、アレルギー体質の人は、その後もかゆみが残るケースがあるため、かゆみが強く、つらい場合は、手術をした病院または皮膚科を受診して相談してみましょう。
予定帝王切開が行われる場合
経腟分娩では、赤ちゃんやママにリスクがあることがあらかじめ分かっている場合に行われる帝王切開です。一般的に37~38週に手術をします。
逆子
逆子で、赤ちゃんの姿勢や体格、母体の骨盤の大きさなどにより経腟分娩が難しい場合、帝王切開を行います。
前置胎盤
胎盤が子宮口をふさぐような位置にあるため、赤ちゃんが産道を通れない上に、赤ちゃんより先に胎盤がはがれるととても危険です。そこで、妊娠36~37週に帝王切開をします。
多胎妊娠
2人以上の赤ちゃんがお腹にいると、ママの体にかかる負担は相当なものとなります。切迫早産や妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)になりやすいので、帝王切開が用いられるケースになりがちです。
児頭骨盤不適合
ママの骨盤の大きさに比べて、赤ちゃんの頭が大きかったり、骨盤の形が変形していると、赤ちゃんが骨盤を通り抜けることができません。こうした場合、事前に骨盤のレントゲンを撮って検査をし、経腟分娩が難しいと判断された時は帝王切開になります。
妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)
高血圧、蛋白尿などの症状が重度の場合は、赤ちゃんの発育が悪かったり、分娩前に胎盤がはがれ落ちる常位胎盤早期剥離を起こすことがあるので、状況を見ながら、早めに帝王切開を行う場合があります。
緊急帝王切開が行われる場合
お産が始まってからトラブルが発生し、そのまま経腟分娩を続けると赤ちゃんとママに危険があると判断された場合に、緊急に行われる手術です。
胎児心拍低下
へその緒(臍帯)が赤ちゃんの首に巻き付いていたりした場合、分娩が長引くことがあります。すると、胎盤機能が低下し、赤ちゃんが低酸素状態に陥ることもあり、危険な状態になります。この場合は、緊急に帝王切開を行います。
回旋異常
赤ちゃんは体を回しながら、骨盤を抜け出て産道を通ってきます。ところが、途中でトラブルが発生し、うまく回転できなくなるのが回旋異常。これ以上お産が長引くことが危険と判断された時は、経腟分娩から、緊急帝王切開に切り替えられます。
常位胎盤早期剥離
通常、胎盤は赤ちゃんが出てきた後、子宮壁からはがれ落ちます。しかし、赤ちゃんの産まれる前に胎盤がはがれ落ちてしまうと、大量の出血を起こし、母子ともに大変危険な状態に陥ります。一刻を争う状態なので、すぐに緊急帝王切開が行われます。
遷延分娩
陣痛が始まってから初産で30時間以上、経産で15時間以上たっても赤ちゃんが産まれない状態をいいます。少しでも赤ちゃんの頭が見えていれば、吸引分娩や鉗子分娩なども可能ですが、このまま経腟分娩を続けていると危険だと判断されれば、帝王切開に切り替えます。
帝王切開をした際の保険
帝王切開は異常分娩に区分されるため、通常のお産と違い、健康保険(国保・社会保険)が適用されます。高額医療控除も受けられる可能性が高いので、領収書はすべて取っておき、加入している保険窓口へ問い合わせてみましょう。
ママ自身が生命保険に加入してる場合は、生命保険会社から手術給付金等が支払われる可能性が高いので、保険契約を確認してみましょう。